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【持ち主】ズベン・エルゲヌビ

【武 器】海成りの剣 シレナマーレ

「おい、そこの。お前だよ。人魚ってのは見たことがない。
あるとすりゃあ、醜悪な魔物ってやつくらいか。お前はなんだ? セイレーンか? ローレライか?
まあなんでもいい。その涙に引き寄せられた俺は、いい獲物になるのか、
それとも、人魚姫を救う王子になり得るのか……。

俺はズベン・エルゲヌビ。砂の民リブラエ・ズベンの子。
天秤の南。蠍の爪。
俺と共に来い。その涙、海原の宝にしてやる。」

お前はなんだと突として問いかけられ、その声色は戸惑いを見せた。
その答えが出る間もなく、王子という言葉にぴくりと携えた剣が反応する。
一瞬にして険しくなった表情、向けられた切っ先。
しかし何も貫くことなく、カランと音を立てて剣は地に落ちる。

「違う…違、う…。憎い訳じゃない、ただただ…哀しいだけ。あの方はその手にかけられてもなお、王子を…愛している。
私はかつて…風成りの剣と共に作られ、二つの国で其々王族に受け継がれてきた剣…
シレナ――そう、シレナマーレ」

溢れる涙は止まることなく、拾い上げた剣へと滴り落ちる。
同時に濁っていた刀身は、水のように澄み渡っていった。

「…私の涙は宝になんてならないわ。星の名を持つ貴方の方が、もっと輝くものを持っている筈。それでも私を欲して下さるのなら、貴方と共に行きましょう。
…ただその前に鎮魂歌を、歌わせて下さいませ。集ってしまった者たちの為に――」

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【持ち主】アイレ

【武 器】女神の鉄槌 ガイア

ね、そこのあなた…そう、あなた。素敵な槌ね。
私も争いごとは好きではないの。…でも、戦わなければならないこともあるわ。
ピンチの時には共に戦って、普段は農業や狩りを手伝ってくれたら嬉しいんだけど…いかがかしら。

「私の力が破壊ではなく、守り育むために使われる。ああ、それはなんて素敵なお誘いなのでしょう。
 …私の名前はガイア。あなたの名前を教えてくださいますか?
 そして、どうぞ私を共に連れて行ってくださいませ。」

 そう言ってガイアはアイレへと跪き、恭しく頭を垂れた。
 

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【持ち主】シーザー

【武 器】DDT

「ほうほう、なかなか面白い弓だね…。魔法かな?まぁ付喪神ってそういう不思議な力の塊みたいなものだよね。
 君、俺と一緒に行かないか?君の力を存分に使いこなせるところがあるんだけど。悪くない話だと思うんだけど、どうかな?」
彼はそう言ってにっこりと微笑むと、手を差し伸べた。

「…俺は、俺の成り立ちについて詳しくは知らない。
 だが、お前は俺よりも俺の使い方を知っているようだ。
 ならば、存分に使え。そのために俺は生まれてきた。」

 そういった意味でなら、悪くない提案だ。
 と、その弓は彼の手を取り己を委ねた。

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【持ち主】サリオン=メリッサ―ラ=リンドール

【武 器】沈む泡のレナーテ

扉の外から聞こえてくる、泡のように沈む声を聴いたのはいつからだろう。彼女は忘却の青に横たわって眠っていた。ずっとずっと。大切な海を護るためだけに戦っていた。そんな姿に憧れ、尊敬し、触れられずとも惹かれたのはいつからだろう。海への詩も詩作も鍛錬も、気付けば総て彼女に捧げては消えていった泡沫。
ある夜、禁じられている事とわかりながら、サリオンは異界の扉に、彼女に、手を伸ばした。触れるためなら、禁断を犯し、泡になっても構わなかった。
「波の音色は、僕にとって子守歌だった。
しかし貴女の想いは時に青銀の歓び、時に身を裂かれるような痛み。
貴女を、あなたの愛するものを護りたい……!
ただそのために、今を、この身を捧げるのは、愚かだと賢者はいう。しかし本当に愚かなのだろうか?
だから……この声が聞こえたら、きっと応えて……、この手を取って。そうしてあ貴女の世界に連れていって!
そうしたら、永遠のような孤独ごと、貴女を抱擁めるから。」

時々、詩が聞こえていた。心地よい声が…。
その詩は孤独を暫し忘れさせてくれるもの。たとえ自分に向けられたものでなくても心が慰められるのは確かで。
夢うつつに聞くばかりできっと夢だと思っていた声だったのに…。
その声の持ち主が…私に向かって話している…?
私を欲してくれている…?この孤独から解放されるのか、そう思うと涙があふれてくる。
誰かと話すのも久々のことで…それでも必死に言葉を紡ぐ。

「海を…共に護る…?
…そうか。あの心地よい詩はお前のものだったのか。海を愛する気持ちがよく伝わってくる、あの詩はお前が歌っていたのか。

それならばその手を取ろう。
私は沈む泡のレナーテ。今より私は主(マスター)の物。海を護るために共に戦おう。
そして主のことも護ってみせよう。それが、私の役目。

ああ…永遠のような孤独から私を救い上げてくれて感謝する…。」

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【持ち主】シエンナ

【武 器】妖鋏レーヴシェラン

貴方はもうずっと、涸れない涙を流しているーー……その血濡れた刃で、貴方自身の心を傷付けながら。

世界は、何一つ誰のものでもないよ。
だからこそ、光も闇も平等に降り注ぐ。
誰にだって。
そう、平等に。

貴方の辿った路がずっと暗がりだったなら、それはきっと、貴方を照らそうとする光さえもその手で断ち切ってしまったから。

ねぇ、私と一緒に行こう?
いつかまた、世界の闇が貴方に覆い被さろうとしたなら、風や、木や、草花がそうしてくれたように、私が貴方に寄り添うよ。

貴方の血が、涙が、乾くまで。
ずっとーー……。

手を差し伸べてくれたのは、少女だった。秋の黄金の陽光色の髪、天使の夢想(ものおもい)が宿願る、永遠の草花の色をしたエメラルドクイーン(妃翠)の瞳。前の持ち主だった双子とは、あまりにも、違う……ーーそれは封印していた光。
「誰だって僕に対してそういうんだ。そんな言葉で、僕の心が癒えるとでも? そんな覚悟で、思いで、血を吐いているとでも??
だから……ずっとだなんていわないで。いっては駄目。それは別れがつらくなる呪いだから。寂しさで縛る呪文だから。
(そっとシエンナの唇を指でふさぐ仕種。そこから十字を切って。それは久しくしなかった祝福の作法。)
だから、それは云わないで。約束はいらない。あなたは僕の、春の天上の光であり、僕はあなたの秋の木陰。
一本の刃だけでは鋏は使えないでしょう?
これからは、貴女に素敵な出会いを、ミストレス。
すでにあなたは出会っているから、この僕と。
だから、2人で行こうーー。

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【持ち主】ファラーシャ=レイル

【武 器】胡蝶刀

「胡蝶、お前は一際美しいな!気に入ったぜ。
 お前のお眼鏡に適うかは分からんが、一応剣舞の心得もあるぞ。
 どうだ、俺を値踏みしてくれて良いぜ。主は良いのを選びたいだろ?」

「剣舞…(嬉しそうに口元を緩め)。
そう、…あなたには舞の心得があるの…。

正直、商売のことはよく分からないけれど、あなたが私を大切にしてくれている限りあなたのことは私が守ります……あるじ…、(そっと手を取り、屈んで甲へと唇を寄せた)。」

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【持ち主】鷺森 苑珠(さぎもり えんじゅ)

【武 器】月華派 鴉丸

「武器が人の形をとるとはまた奇怪ですわね。
 でもわたくし、そんなことでは驚きませんことよ。
 世の中には人知を超えるものがあることを、わたしくこの眼で十分見てきましたもの。
 そ・れ・よ・り。ちょうど良い弓が欲しかったところですの」

鴉丸の持つ和弓を下から上まで眺め、苑珠はにっこりと笑う。

「鴉丸、といいましたわね?及第点ですわ。わたくしのものになりませんこと?
 多少荒っぽい使い方をする時もありますが、悪い思いはさせませんわ。
 貴方の望む美味なお菓子も満足するだけ用意させましてよ。
 帰る為には付喪神のボスとやらを倒さないといけないようですし、それから決めて頂いても構いませんけれど。いかがかしら?」

「気の強そうな女子じゃのう。よし、気に入った!!
苑珠とやら、余を使いこなしその ” ぼす “ とやらを倒してみせよ…!
……ん、美味な菓子も忘れるでないぞ!!(爛々と目を輝かせ)」

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