神獣は時が来たら王を選び、国へと下り
王と運命を共にするという…
神獣は王に出会おうと天啓を感じ、
自ら王に傅く…
幼い頃より聞かされた神獣の役目。
初めて聞く言葉ばかりなのに、すんなりと理解できたのはきっと
私の生きる意味そのものだから…。
「鈴燐様、そんなにくっ付いては仕事が進みませんよ」
くすくすと笑う彼女に、甘えるように抱きつく
なにかと世話を焼いてくれる女性たち、
(彼女たちは、自分を仙人と言っていたけれど…まだ良く分からなかった)
その中でも特別に大好きな女性が居た。
元々成長が遅かった私は、獣の姿から人の姿になるまで
ずいぶんと時間がかかった。
完璧に人の姿にはなれず、耳が残ったり、尻尾が残ったり…
周囲に出来損ないと言われても、彼女だけはいつでも慰めてくれた。
「ねぇ… どうやったら王様ってわかるの?
私は、どうしたら主様に会える…?」
「さぁ…それは私共では分かりかねますので…
ですが、焦ることはありませんよ。
時が来れば自然と、王を選ぶ事が出来ます」
時折たずねてくる空玄様も、そう言って不安がる私を慰めていた。
時が来れば… その時はいつ来るのだろう…?
人型を取れるようになってからは頻繁に自国を訪れ
何度も何度も主を探した。
『おうき』と言うものがなんなのか、分からぬままにただひたすら
自らの主を探し続ける。
国へ下るたびに、自国は少しずつ荒廃しているのに気づく
田畑を耕しても津波で流され、海は荒れ
漁師たちは船を出すことすらままならない日すらあった。
民の痛みに涙し、眠れぬ夜が続く。
そして数日―
「鈴燐様、ついに昇山の者たちが参ります
…まだ成獣になっていない鈴燐様は、他の神獣たちに比べ
力を扱いきれておりません
どうかお一人で、昇山の者たちにお触れなきよう…」
心配する彼女の反面、私は何故だかとても嬉しかった
この中に王が居る…!そんな確信があった。
王に会える…!そのことが嬉しくて忘れていた
自分だけが王を選べる、特別な生き物だと言うこと…
「おい、あれ麒麟ってやつじゃないのか?
捕まえて傅かせれば俺が王だぜ…!」
女仙とはぐれた僅かな隙、わけの分からぬままに取り押さえられる
捕まった恐怖、それ以上に『愛すべき自国の民』からの仕打ちが悲しかった。
「おいおい、女の子1人にそれはないんじゃねーの?」
「えっ?!」
突然聞こえてきた声に、聞いたことも無いはずなのに
懐かしさを感じた。
羽が生えた様にふわりと高台から飛び降りた少年。
彼を見た瞬間に、理解した
『この人こそが、私の主なのだ』と…。
慌てて女仙たちが駆け寄り、私を拘束していた男性を叱責し
私から遠く引き離す。
「あんたが神獣?へぇ、想像してたのと全然違うなぁ。」
未熟な神獣に幻滅したのだろうか…
そう思い少し俯くと、少しの間
その後の言葉は、私を驚かせた。
「なぁ、こんな俺でも王になれるかねぇ?
一応こんな若輩でも国を想う気持ちはちゃんとあるんだぜ?
みんなが何不自由なく恐れることもなく、幸せに暮せたら最高じゃん。
ガキの夢だと思われるかもしれない。
――それでも俺は、そんな国を目指したい」
嬉しかった
待ち焦がれた王は、この国を愛していた
自らだけでなく、他者の幸せを望める
心優しい王…。
言葉が、心があふれて出る。
こんな感情、生まれてはじめて…
「ずっとお待ちしておりました主様
私の望む国は、万民の為の国。
人々が戦火に恐れる事も、飢えに苦しむ事もなく、
誰にも虐げられず、日々を穏やかに過ごせる暖かな国…
そんな国を築いて行きたいのです
人も獣も当たり前のように明日を過ごせる
何者にも脅かされることの無い平和な国
その夢を、叶えて下さいますか?」
期待半分、不安半分で目の前の主に問いかける。
彼は驚いたような表情の後
人懐っこい笑みを浮かべる。
『当たり前だろ』そういってにかっと笑う彼に、
いつの間にか惹かれていた。
衆目も気にせず、目の前の少年に傅く
角を彼の足元へ… そして、誓約の言葉
「貴方様が万民の為の王で有る限り
心から貴方様を愛し、決してお側を離れず
いかなる時も、貴方の意思がなされる様、
誠心誠意お仕えすることを、ここに盟約致します。」
静まり返った周囲。
『許す』
彼の発したその言葉で、一気に歓喜の声が上がる。
そうして、最年少の主従が誕生した
これから先、どんな困難にも二人一緒なら立ち向かえる…。
「主様… 私、幸せです!」
―二人手を取り合って、理想の実現の為
何処までも進んでいく。
その先に嵐が待とうとも、共に乗り越えて行こう