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【エピローグ】
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早朝。少女は荒れた畑を懸命に耕していた。
いよいよ荒廃の足音が間近に迫り、人々の顔が絶望に染まっていく中、
それでも少女は頑に故郷での暮らしを守り続けている。
王の伝説を信じているからだ。

——神獣が王を選び、その者が玉座に即けば、全ての災厄は去る。
里の皆はとっくに信じるのをやめて、所詮はおとぎ話と笑うけれど、王は必ず現われる。
だから自分はこの国の民として土地を守り、いつか王にお渡しするのだ。
そうすればきっと何倍にも豊かにして返してくださる。
そう信じて疑わなかった。

「お姉ちゃん! お花をみつけたよ!」

汗水垂らして働いていると、近くで遊んでいた幼い弟が駆け寄ってきた。
花とは珍しい。季節は夏を迎えようとしていたが、里の風景は未だ荒涼としている。

「珍しいわね。ようやく春が来たのかしら」

そう言って受け取ると、弟は嬉しそうに笑ってまた元気に駆け出した。
小さな花に心を和ませ、もうひと頑張りしようと畑に向き直る。
するとその時、土の中に何か動くものがある事に気が付いた。

「……ミミズだわ」

少女の鼓動が速くなる。今日はどこかおかしい。いつもとは何か違う気がする。
突き動かされるようにあぜ道に駆け寄ると、枯れ草を掻き分けた。
根元に、緑の若草がほんの少し顔を出している。
立ち上がって裸の木の枝を引き寄せた。節に、新たな芽がほころんでいる。
これは。これは。

呆然と佇む少女に、再び弟の明るい声が掛けられた。

「お姉ちゃん、虹!」

空を見上げる。この天気で虹など架かるはずがない。
あれは虹ではない、雲だ。
五色に輝く雲が、——瑞雲が。真っ直ぐに都の方へと伸びている。

「ああ……!」

崩れ落ちた少女に驚いて弟が駆け寄ってくる。
二人の間を風が駆け抜けた。生命の息吹を運ぶ風だ。
再び空を見上げると、虹色の雲を追いかけるように鳥の群れが上空を飛んでいる。生き物達が帰ってきたのだ。
まぎれもない、これは。

待ち望んだ奇跡に言葉が出なかった。
少女はその場に手をつき、遠く雲の上を渡る人に向けて叩頭する。

どうかお願いします。この国を。私達を。
皆の夢見る、豊かな国をお与えください。
どうか、どうか——。

その異様な様子に弟は戸惑っていた。
しかし姿勢を戻した姉の晴れ晴れとした顔を見て、ほっと安堵すると袖を引く。

「お姉ちゃん、お腹すいたよ」

「そうね、戻りましょう。早く皆にも教えてあげなくちゃ」

姉弟は手を繋いで家路を急いだ
瑞雲の軌跡をなぞって、人の心にも希望が芽吹く。

数日の後。その報は国の隅々にまで知れ渡り、人々は喜びに湧いた。
——王の登極である。



王と神獣—凌霄の志— 了
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【end roll】

神獣12名・王候補12名 +α(敬称略)
ご参加ありがとうございました!

© 2017 王と神獣

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